
こんにちは。データコンサルティング部の飯田です。普段は自然言語処理に関する業務に携わっておりますが、このたび『教えたくなるほどよくわかる 数学の基礎講座』の監修を務めました。著者は、小さい子どもからオックスブリッジを目指す学生まで、幅広い生徒に数学を教えるクリス・ワーリング先生です。今回はこちらの書籍についてご紹介します。

教えたくなるほどよくわかる数学の基礎講座 | ニュートンプレス (newtonpress.co.jp)
日本ではあまり馴染みがないかもしれませんが、ワーリング先生は数学の面白さを紹介する本を何冊も書かれています。たとえばこちら。From 0 to Infinity in 26 Centuries:
The Extraordinary Story of Maths by Chris Waring (goodreads.com)
「数学書なのだから、公式や定理が窮屈そうに並んでいるのだろうな」と思って手に取ってみると、最初の章が “Prehistoric Maths” – 「先史時代の数学」なのでびっくりします。そして続く章は “Stone Age” – 「石器時代」。考古学の参考書でしょうか?それとも歴史学?いいえ、数学の参考書です。数学と歴史、一見奇妙な組み合わせですが、ワーリング先生は型にはまった教え方にとらわれません。自由な発想で数学の楽しさを伝えてくれます。
たとえば、ALBERTの業務でもよく使う「相関」について取り上げてみたいと思います。その昔使った教科書では、ピアソンの相関係数の公式がページの中央に鎮座して、その脇にいくつかの例題と練習問題が添えられているだけでした。そこには公式の生まれた背景もなければ、先人たちが解こうと欲した問題もなく、不出来な学生だった私にとっては、どうにも味気ないものに思えました。授業で学んだときの印象は「いつかどこかで使うかもしれない、便利な道具」でしかなく、試験のあとには長らく思い出すこともありませんでした。
しかし『教えたくなるほどよくわかる 数学の基礎講座』では、ピアソンの相関係数が生まれるまでの経緯を交えて、とても印象的に教えてくれます。本書では、19世紀の統計学者であるフランシス・ゴルトンについて触れています。彼はチャールズ・ダーウィンのいとこであり、その著作『進化論』に影響を受けたのか、親のすぐれた特徴を子に引き継がせるメカニズムに興味を持っていたようです。ゴルトンが卓越していた点は、当時まだ「進化」も「遺伝」も整理されていなかったのにも関わらず、この現象を統計学的アプローチで解明しようと試みたことです。彼は「回帰」や「標準偏差」といった重要な概念を次々と考案していき、最後に相関係数のアイデアを教え子のカール・ピアソンに託しました。そしてピアソンは、師の期待に応えて相関係数の定式化に成功したのです……。以上、ピアソンの相関係数が生まれるまでの物語でした。もっとも現実の歴史はそこで終わらず、彼らの創始した優生学は多くの事件に関わり、やがてタブーにさえなるわけですが。
いかがでしょうか。私にはもう、相関を単なる分析のツールとしては見られません。関連したいくつもの歴史的な事実が連想されて、共分散と標準偏差とが映画のワンシーンのように思えます。もはや、試験がないからといって忘れることはないでしょう。

ワーリング先生はこうした世界史のような切り口だけではなく、色々な題材を用いて数学の面白さに気づかせてくれます。
相関についてもう一例挙げてみると、疑似相関を説明するのに https://tylervigen.com/ というWebサイトを紹介しています。こちらのサイトでは管理人のタイラー・ビゲン氏が疑似相関とみなすデータが公開されており、特にワーリング先生のお気に入りは「アメリカの原発のウラン貯蔵量」と「数学博士号の取得者」の疑似相関のようです。もちろん、原発にウランを運び込むことで博士号の取得者が増えるわけではありませんね。ちなみに私のお気に入りは「モッツアレラチーズの消費量」と「土木工学博士号の取得者」の疑似相関です。

本書を読み進めていくと「こうした教え方をしてくれる先生が、自分にもいたらよかったな」と思わずにはいられません。私が数学の面白さに気づくには多くの出会いが必要でしたし、それ以前の私にとって、数学とは大人になるための理不尽な通過儀礼に過ぎなかったのです。同じ思いをされて、数学にすっかり苦手意識を抱いてしまった方も少なくないのではありませんか。
そうした方にこそ、本書を読んでいただきたいと思います。数学は一見無機質で、拒絶感さえ与えるものですが、教科書には書かれていない物語を紐解いていくと、リアルな世界とのかかわりが具体的にイメージできるようになり、ぐっと距離が近づいてきます。
ちょっとしたエッセイを読むつもりで、この数学書を手に取ってみませんか。
最後にちょっと宣伝を。ALBERTは日本屈指のデータサイエンスカンパニーとして、データサイエンティストの積極的な採用を行っています。興味を持っていただいた方は、採用ページもご覧ください。
以上です。それでは、ごきげんよう。
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